お酒を見れば時代がわかる?邪馬台国から江戸幕府まで、権力者が執着した「日本酒」の魔力【第10録】

酒の歴史

みなさん、こんにちは! 世界のお酒の歴史を巡る文明編も、いよいよ今回の『第10録』で一つの節目を迎えます。これまでに古代ギリシャの「理性」を重んじるワイン文化や、古代中国の「権力」と結びついた劇的なお酒の統治を見てきました。

最終回となる今回の舞台は、私たちの国「日本」です!

私たちが普段何気なく楽しんでいる日本酒ですが、その歴史の扉を開けてみると、そこには邪馬台国の時代から江戸幕府に至るまで、時の権力者たちが並々ならぬ執着を燃やした驚きのドラマが隠されています。お酒の変遷をたどることは、そのまま日本の歴史の裏側を覗くことでもあるのです。

邪馬台国から奈良の朝廷へ〜神への捧げものが「国家の特権」になるまで〜

 日本におけるお酒の歴史は、きわめて神聖な「祈り」の道具として始まりました。

 中国の歴史書『魏志倭人伝』を紐解くと、当時の日本人(倭人)について「お酒を好む」「葬儀の際、人々が集まって歌い舞い、お酒を飲む」といった記述が見られます。古代の日本人にとって、お酒は日常の飲み物というよりも、神の神託を受けたり、生と死の境界線で神と繋がったりするための特別な「神聖な雫」だったのです。   
 しかし、時代が下り、大化の改新を経て中央集権国家が形作られるようになると、この神聖なお酒は一転して「国家の最高管理下」に置かれることになります。

 奈良・平安時代に制定された律令制のもとでは、朝廷の中に「造酒司」というお酒造り専門の国家機関が設置されました。これは、天皇や貴族が宮廷の儀式で使うためのお酒を、最先端の技術と厳選された米を用いて完全な独占体制で製造する仕組みです。民間が勝手にお酒を造ることは厳しく制限され、お酒は完全に「国家の特権」となりました。

 神への捧げものであったはずのお酒が、国を治めるための象徴として囲い込まれていく過程には、黎明期の日本が「国家」としての体裁を整えようとした強烈な意志が感じられ、歴史の必然としての面白さに引き込まれます。

室町・戦国時代のマネーゲーム〜「酒屋」が支えた幕府のサイフ〜

 中世に入ると、お酒は「信仰や儀式」の手を離れ、非常に現実的な「経済の武器」へと化け始めます。その主役に躍り出たのが、高い醸造技術を持つ「大きな寺社」や、都市部で台頭した「酒屋」でした。
 特に室町時代になると、京都には数百軒もの酒屋が立ち並び、莫大な富を蓄えるようになります。そこに目をつけたのが、常に深刻な財政難に悩まされていた室町幕府です。
 幕府は、これらの酒屋に対して「酒屋役」と呼ばれる重い税金を課す代わりに、営業の独占権を認めました。なんと、当時の室町幕府の年間収入の大部分が、この酒屋からの税金で賄われていた時期もあったと言われています。お酒はまさに、幕府の命綱となる「打ち出の小槌」だったのです。
 戦国時代には、織田信長などの天下人たちもお酒の流通を掌握し、城下の経済を活性化させる道具として利用しました。

 現代の私たちが居酒屋で支払うお酒の代金や酒税の仕組みも、そのルーツはこの室町時代の経済システムにあります。時の政府が「お酒の利益」に依存して国を動かしていたというのは、今も昔も変わらない人間の営みを感じて、どこか親近感を覚えてしまいますね。

豆知識:江戸幕府の徹底抗戦!飢饉と「密造酒」の厳しい取り締まり

 江戸時代になると、日本酒の醸造技術はさらに洗練され、現代に近い「澄んだ日本酒(清酒)」が大量に造られるようになります。しかし、ここで幕府にとって最大の課題となったのが、お酒の原料である「米」のコントロールでした。

 当時の日本は「石高制」であり、米はそのまま国の経済の基準(お金)でした。そのため、冷害や大雨によって「飢饉(きんきん)」が起きると、幕府はすぐさま厳しい制限令を出しました。

「米が足りないときに、貴重な米をお酒に変えて浪費してはならない」

 幕府は「酒株」という許可証を持つ限られた業者にしか酒造りを認めず、飢饉の際にはその製造量を「半分」や「3分の1」に減らすよう命じました。当然、許可を持たない者が隠れてお酒を造る「密造酒」は絶対に許されず、発覚した場合は、製造器具の没収はもちろんのこと、重罪として過酷な処罰が下されたのです。お米一粒、お酒一滴の裏には、幕府の徹底した統制の目が光っていました。

まとめ:お酒の歴史は、日本の歩み

 邪馬台国の神聖な儀式、室町幕府の財政を支えたマネーゲーム、そしてお米の価値を守るために徹底的な統制を行った江戸幕府。
 こうして日本の歴史を振り返ってみると、お酒は常にその時代の「政治・経済・文化」の中心にありました。権力者たちはお酒の持つ抗いがたい魅力に惹きつけられ、時にそれを頼り、時にそれを恐れて必死にルールを縛り続けたのです。

 私たちが今日、移り変わる四季の中で美しい日本酒を平穏に味わえるのは、歴史の荒波を生き抜いて磨かれてきた、先人たちの統制と情熱の結晶なのかもしれません。

次回予告:次回【第11録:ワインの名門国編】歴史と気高き葡萄のプライド

全10回にわたり、古代から近代へと続くお酒の基本的な歴史を辿ってきましたが、次回『第11録』の舞台は、世界中が認める【ワインの名門国】。
  ただ美味しいワインを造るだけでなく、国が法律でブドウの品種や畑の格付けを厳しく管理し、ワインを「国家のプライド」にまで高め上げた、洗練された情熱の歴史をお届けしますそして、その先には芳醇な琥珀色の液体、【ウイスキーの故郷編】を書く予定です.

洗練された大人の嗜好品が、どのようにして世界を魅了するブランドへと育っていったのか。次回からの新章も、どうぞお楽しみに!

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